今の政治情勢、学生気質では、そして博多駅の佇まいからは全く想像できないのが、昭和43年1月にあった、米軍原子力空母の佐世保寄港に反対する学生団体の博多駅下車に対し警察が警察権力で対抗し揉め事に発展した博多駅事件に端を発する、博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭和44(し)68、刑集第23巻11号1490頁)
ざっくり法学的にまとめると、「報道の自由は憲法21条の保障、取材の自由も21条の精神に照らし尊重に値するが、無制限のものではなく、刑事裁判の証拠として公正な裁判実現のためには、将来の取材の自由制限のおそれという不利益は忍受すべき」といった理屈で、裁判所が出したマスコミ各社に対する裁判の証拠とするためのテレビフィルムの提出命令が、違憲ではない、としたものです。
今のデジタル素材ではなく、フィルム、というのが時代を感じさせる話でもあります。
この判例に関しては、法学的には表現の自由やら取材の自由うんぬん対国家権力(裁判所)という枠組みが強調され、当時のマスコミも、自分「たち」の利益誘導的な報道をしているので、勘違いされがちですが、実は、マスコミと国家権力(警察権力・体制側)が組んで、憲法をタテに、中立的な国家権力(裁判所)に圧力をかけた裁判といった感じもあるところです(法解釈とは次元が異なる話ですが)。
というのは、そもそも、博多駅での警察と学生の小競り合いに関して、警察と学生が相互に相手方を刑事事件としてやり合うという展開になり、学生に関する公務執行妨害に関しては、無罪確定である一方、警察官の行為について、特別公務員暴行陵虐と国家賠償で裁判になり、この裁判に関し、どちらかというと学生側の証拠の一つとして裁判所が提出命令を発したもので、全体として見た場合、駅というパブリックスペースでの記録映像ですので、NHKやらのマスコミが、憲法21条を理屈に提出を拒むのは、警察側に不利な証拠の隠蔽をしてるような格好だからです。
このあたり、周期的に話題になる、電波の免許制と国家権力の癒着、記者クラブ等の存在も間接的に影響している可能性があるところで、ひいては、昔の国民の知的水準、メディアの力等等も絡むところでしょう。
さて、博多駅テレビフィルム提出命令事件の舞台の博多駅ですが、民営化後、不動産貸付業が本業になっているJR九州の本店格であり、大規模改修が完了してます。

メインの改札は小さくまた自動化された一方、出入り口が駅商業ビルにもできる等、数が増え、更には商業施設直結で人の往来が劇的に増えた、今の博多駅で、大規模な職務質問で、学生団体を食い止めるのは難易度が高い一方、学生団体も、昔のように長編成の中長距離列車がないので、まとまって博多駅に移動、というのが難しく、現在では物理的に発生しにくい事件といった感じです。
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